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第11話 「アフリカの散髪事情・・・相棒、岡本誠司の悲しいストーリー」
僕と相棒の岡本誠司はボツワナへの入国を控えたナミビア最後の町、ゴバビスで丸1日休養を取った。来たるべくボツワナは地図を見る限り、ナミビア以上に無人区間が多く、食料の調達もしておかなければならなかった。それにボツワナは恐ろしく物価が高いと聞いていたので、できるだけこの町でいろんな物を買い込んでおきたかった。午前中にこの小さな町の店を巡り、食料などを買い込む。ナミビアの店に置かれてある品物は、そのほとんどが南アフリカからの輸入品なので、いまさら目新しい物は見つからない。チキン入りやラム入りなど約5種類の選択肢があるが、どれも味はたいして変わらないカレー風味のご飯の缶詰。芯に火が通るほど沸騰させると表面がドロドロと溶け出すスパゲティー・・・。いや、南部アフリカの食べ物の悪口を言うのはやめておこう。なんだかんだ言っても、この辺りはヨーロッパ文化の影響を深く受けていて、頭をかかえるような恐ろしい食材を食わされることはなかったのだから・・・。
 
さて、相棒の誠司の悲劇は、こんな食に関することではない。午前中、買い物を終えた僕たちは、午後の時間を持て余していた。なんて言ったって、30分もあれば町をひと通り見て回れるほどの規模なのである。誠司は「再び町を探索してくる!」と言ってホテルを出て行き、僕は独り部屋に残り自転車を洗ったりしながら時間を過ごしていた。夕方になり、部屋のドアが開き誠司が帰ってきた。しかし、彼は部屋の入り口に立ち尽くしたまま部屋に入ってこないのである。ドアを開けたまま立ち尽くす誠司に、僕は並々ならぬ雰囲気を感じた。

普段は帽子をかぶっていない誠司が、帽子をかぶっている。僕は恐る恐る、“帽子を買ったのか?”と尋ねてみた。すると彼はしばらくの沈黙のあと、興奮しながら、
「聞いてくれ!俺はなにも悪くはない!ただ、散髪屋に行ったらジェット・リーの写真が貼ってあって、ジェット・リーみたいにしてくれって言ったら、いきなりバリカンを前髪のど真ん中から入れられたんだ。その一秒後には逆モヒカンになっていて・・・どうにもこうにも抵抗する術がなかったんだ・・・。」とうなだれていた。
僕は、大笑いしながら、“ちょっと帽子取ってみろよ。”と興味本意で言うと、
「あほか〜!死んでも取るか〜!!! 」と殺意を持った目で僕をにらんだ。そう誠司は、丸坊主になってしまったのである。

誠司が丸坊主になってしまったことを笑っていたのも、自分が数ヵ月後、全く同じ目に合うまでの間だった。誠司の失敗を教訓に、僕は散髪しようとするたびに、その町で一番良いとされている散髪屋を探した。そして、「絶対にバリカンを使うんじゃないぞ。ハサミで髪を切ってくれ。」と激しく注文していた。しかし、終わってみれば丸坊主同然のヘアースタイルになっていたのである。彼らは、こちらの注文どおり不可解気味にハサミで髪を切っていくものの、最後はバリカンで髪を整えようとする。バリカンに抵抗すると彼らは、「いいから俺の腕の信用せい!」と強引にバリカン作業に入る。しかし、扱い馴れていない東洋人の髪質のせいか、バリカンを入れているうちに左右のバランスが悪くなり、そのバランスを調整するためにさらにバリカンを入れる。気がつくと丸坊主同然のヘアースタイルになっているのである。こちらが坊主になってしまったことに絶望していると、散髪屋たちは、「どうだ。俺の腕は。たいしたもんだろう。」と言わんばかりに胸を張っている。どうやら長髪というのは、彼らの美的感覚から完全に外れてしまうものであり、あってはならないもの!と認識されているようでもある。
 
丸坊主になったことがよっぽどショックだったのか、この日以来約一ヶ月、誠司は帽子を取ることはなかった。寝る時もしっかりと帽子をかぶり、しかも寝相で帽子が脱げてしまわないように両手でしっかりと押さえて器用に寝ていた。
水浴びをする時も、「いいか!お前、絶対俺が水浴びしてるところを覗くんじゃないぞ。覗いたらタダじゃすまんぞ!」と僕を威圧してから水浴びに向かったのである。

不慮の事故で頭を丸めて身を清め、僕たちの旅は三カ国目、ボツワナ共和国へと進んでいく。
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